Gamma-Ray Burst (GRB)

    ガンマ線バーストと呼ばれる天体現象を知っていますか?ガンマ線バーストとは、 数十秒程度の短い時間、エネルギーが数百キロ電子ボルトの電磁波(ガンマ線)が 宇宙から降り注いでくる現象です。現象があまりにも短時間で、しかもいつどの方向で 発生するのかわからないので、その謎を解くことができませんでした。 1960年代には既に知られていた現象であるにも関わらず、未だにガンマ線バーストを 起こしている天体は明らかではありません。天文学上の七不思議のひとつですね。 しかし「あすか衛星」やイタリアの「BeppoSAX衛星」の活躍によって、 かなりのことがわかってきました。

    右図はガンマ線バーストの概念図です。突発的な爆発現象を表しています。 (ESA XMM-Newton より)


では、ガンマ線バーストの特徴を一つずつ見ていきましょう。


    右図は、コンプトンガンマ線衛星で観測された典型的なガンマ線バーストの強度(光子数)変化です。ガンマ線バーストは突然発生し、ミリ秒程度の激しい変動を伴いながら数十秒程度の短い時間で終わっていきます。このように短時間で変動することから、ガンマ線バーストの発生源はとても小さい(c×dt 〜 数 10 km 程度)と考えられます。(CGRO提供)

    GRB の光度曲線

    まず画期的であったことは、1997年になって、このガンマ線バーストに 「X線残光」と呼ばれる現象が発見されたことです。X線残光では、 徐々に弱くなりながらも1週間近く観測可能な残光が残るのです。 この残光は、X線で始まり、紫外線、可視光、赤外線、電波と移行するのが 一般的で、主に輝く波長帯を変えながら、どんどん暗くなります。 残光により長時間の観測が可能になると、正確な発生位置がわかるように なってきました。位置がわかれば、いろいろな調査ができるようになり、 この4年間に確認された残光から発生源までの距離が非常に遠いことが わかってきました。 私たちが知っている宇宙では「宇宙マイクロ波背景放射(いわゆる3K放射)」 が一番遠いのですが、ガンマ線バーストはその次に遠いのです。 このように遠い距離は、天文学の世界では赤方偏移 z で表現しますが、 間違いなく z 〜10 程度(宇宙年齢の96%、およそ130億光年に相当)から 来ています。今までに知られている一番遠い銀河が z 〜 5 程度 (宇宙年齢の91%、およそ120億光年に相当)ですから、 いかに遠いかがわかりますね。 このことから源での発生エネルギーはとてつもなく巨大で、 宇宙で最大の爆発現象と考えられています。比較的近くで発生した ガンマ線バーストをよく調べてみると、そこには銀河がみられます。 ガンマ線バーストは遠方の銀河の中で稀に起きる現象なのでしょう。 しかしどのような天体が、こんなに遠方でも明るく見える現象を 起こしているのかはわかっていません。 もっとたくさんのガンマ線バーストの距離を決めることや、 ガンマ線バーストの発生環境を調べることが重要で、 このような観測に「あすか」が活躍しました。

    GRBの減光

    上の図は、減光の様子を1週間観測した結果です。 ここには8例のガンマ線バーストの減光の様子が両対数で描かれています。 両対数で直線ですから、時間のべき乗で減衰します。

    右図は1997年8月28日に発生したガンマ線バーストのX線残光を「あすか衛星」で観測したものです。ガンマ線バーストの発生位置に「あすか」が数日後でも観測可能なX線残光が現れて減衰していきます。観測の前半(左)と後半(右)とで X 線強度の変化を比較してみると、明らかに減光しているのがわかりますね。

    X 線残光の撮像観測

    「あすか」が観測したガンマ線バーストのX線残光。右は発生後約1日後、左は2日後です。このようにX線で減光していきます。

    「あすか」はこのX線残光スペクトルを作ることに成功し、そこに元素特有の特性X線(輝線)を発見しました。それを鉄の元素からと考えると z=0.9578の距離(宇宙年齢の56%、75億光年に相当)であることがわかりました。このように輝線の同定に成功すると、距離が正確に決められます。また、ガンマ線バーストの発生源は鉄を多量に含むような、濃いガス環境にあることもわかります。これは発生天体を考える上で重要な発見です。X線で位置が決まると、地上の大型望遠鏡でも精密な観測が可能になります。そして多くの場合、遠い銀河が存在し、ガンマ線バーストは銀河の中で起きる現象であることがわかります。しかしそれを起こした天体の種類はまったくわかっていません。原因天体がわからない、しかも宇宙で最大の爆発現象が未だにあるなんて楽しいですね。

    X 線残光のスペクトル

    「あすか」が観測に成功したガンマ線バーストのX線スペクトル。5キロ電子ボルト付近に奇妙なこぶがあります。これが鉄の輝線です。鉄と考えると距離を出すことができ、z=0.95と大変に遠いことがわかります。

    右の図はガンマ線バーストの発生位置をハッブル望遠鏡が観測した画像で、観測した時間毎の連続写真で見ています。段々と暗くなるのがガンマ線バーストの可視光残光現象で、その近傍には淡い光を放つ銀河が見られます。残光の位置は銀河の中心とは異なっています。ですから、ガンマ線バーストは銀河に付随した星の爆発で発生すると考えられています。このように、多くのガンマ線バーストは遠くの銀河の中で発生することがわかってきました。(Hubble提供)

    GRB990123の減光と母銀河

村上敏夫、吉田篤正:2002/04/01
米徳大輔:2002/09/11

 宇宙物理研究室の活動について(2002年7月11日 理学部講演会)