私の B2面

 金沢大学に赴任して、最近で1年となりました。金沢に来るまでは良さを知 らず、ここに来て始めて知った事柄について書いてみようと思います。



ひと時、私が入れ込んでいたのは「暁烏 敏」と呼ばれる宗教家でした。「歎 異抄」と呼ばれる宗教書を多くの人が読んだと思う。真宗教団では、誤解を招 きかねない内容(悪人正機とか妻帯)を含んだ経典として門外不出の「歎異抄」 を禁書として扱っていました。それを堂々と世の中に紹介してしまった人が彼 です。そこには絶対的なこの本への信頼があり、彼が雑誌「精神界」に書いた 解説は情熱的で素晴らしい内容と知られています。
私は歌人としての彼に最初興味を持ちました。赤裸々な表現が出来た人です。 明治の時代背景を考えると、このような表現を可能にした人はそう多くはあり ません。彼に匹敵する人は、与謝野晶子くらいしか思い出せません。、はげし い女性関係があったこの人には、ほとほとまいったという面もありますが、巨 人です。この人の書庫が置かれるはずだった場所(石川第一師範学校跡地)に 現在の私は住んでいます。彼から寄贈された5万冊の蔵書が金沢大学の図書館 にあり、私はその大学で働いています。更に、私の名前は敏夫、息子の名前は 暁です。 因縁を感じないわけがありません。5万冊の蔵書を見た時、これは 「ただ者ではない」と直観したしだいです。その激しい女性関係と明治・大正 期にはめずらしい短歌、その人生に興味を抱きました。 しかし、ここではそ れを紹介することは出来ないので(私に力がない)、 どこかの機会に譲りま しょう。

話しは変わって、ここで紹介するのは九谷焼です。私は焼物の盛んな愛知県 常滑市近郊に生まれたので、九谷焼は知っていました。しかし九谷焼の人間的 な魅力を十分には理解してはいませんでした。 余りにも人間臭い、一人の人 が見えてきます。焼物のドラマがあるように思えます。
すばらしさは一見にしかず、まず見てもらえば分かるでしょう。これらの皿 絵はごく小数の絵師によるものと思われます。1650年頃といえば、焼物の 絵は中国的と言うか墨絵的と言うか、類形化された絵柄が多いのが普通です。 一方、黒楽、志の茶碗や備前に代表されるように、「わび」とか「さび」 とか言われる世界が普通です。 しかしこの絵師の自由さは何でしょう? もうイ キイキと勝手に絵を描いたとしか思われません。こんなことが、どうしてこの 時代に出来たのでしょう。なぜ、このような絵の焼物が加賀ばかりから出てく るのでしょう? ここには、数人か一人の「抜きん出た絵師」の存在が見て きませんか? 彼の笑っている、楽しんでいる姿が見えてきませんか?
もう一つ面白いのは、この九谷焼がどこで焼かれたか? はっきりしないの です。ここでみせた九谷は、ほとんどが加賀に存在しますが、かんじんの九谷 の窯からは、焼いた破片が出てこないのです。当時の加賀藩にこれだけの質の 白磁を焼く能力があったか? 疑われているのです。生地は白磁です。たしか に十分に白いとはいいがたいが、確かに白磁で、当時これだけの白磁を焼けた のは、唐津や伊万里であると言われているのです。 これは面白い話しで、解 明に向けて何かできないでしょうか?

代表的な九谷焼 この彩色の伸びやかさは、何でしょう。ここに出てくる全ての皿の直径はたいたい50cmの大型です。

代表的な九谷焼 椿は赤い? その常識をくつがえし、花を大胆にも黒にしてしまった。

代表的な九谷焼。 これは絵? デザインですね。こんなこと1650年頃の人がやる? そして彼の筆の正確さ。4つの絵が揃っている。

代表的な九谷焼

代表的な九谷焼 ぼたんでしょうか? ここでも花を黒くしていまう。

代表的な九谷焼 これは一見古いデザインですが、皿にこのような幾何学模様を入れるのを他では見ない。

代表的な九谷焼 これももう完全なデザインです

代表的な九谷焼。 これに至っては、、 何ですか? 本人は遊んでいるとしか言えない。こんな絵を誰が、焼物にしようと考える? 本人は楽しかったのでしょうね?

代表的な九谷焼 ちゃんと小さな鳥が遊んでいる。

代表的な九谷焼。 この大胆さ! これで松ですよ。 皿に、一本の松。しかもこんな色の松。 この時代の人なら、墨絵でかいたろう。

代表的な九谷焼 九谷では「ごす」を使って輪郭を描くのが普通ですが、この松の輪郭は特異ですね。「ごす」の使い方を良く知っていた。

代表的な九谷焼。 これは桜です。 何で、桜を青くして 深い海に沈めたのだろう。少し神秘すぎる。彼の感性の中には、このような絵もあったのです。

代表的な九谷焼。 深い緑の海に 青い桜。

さあ、十分に楽しんでいただけだでしょう。 こんな大皿を金沢:石川県立美術館 や加賀市:九谷焼美術館で見ることができます。 見てみたいと思いませんか? 絵を描いた絵師が笑っている姿が浮かんできます。

誤解の無いように、だから現在の九谷焼も面白いと考えたら、それは、、、、、、 ある意味失望です。面白い作家はいますが、、、、