放射線計測
                 
金沢大学理学部物理 学生実験 v.2, April 8
                      
  物理学実験で「放射線計測」と呼ばれる技術を使う例が多くあります。代表的な例を調べてみよう。神岡鉱山の地下、ニュートリノ観測施設で行われている実験では水チェレンコフ光を1万本以上の光電子増倍管(photo-multiplier tube:PMT)で計測しています。ここでは陽子が崩壊するかどか?ニュートリノに質量あるかどうか?を調べています(http://www-sk.icrr.uーtokyo.ac.jp/index_j.html)。筑波の高エネルギー加速器研究機構では、加速した電子を衝突させて素粒子を生成し、それを計測します。CP対称性の破れを確認した最近の実験は有名です(http://www.kek.jp/public/)。放射線計測は荷電粒子とは限っていません。宇宙ガンマ線バーストからのγ線や中性子星やブラックホールからのX線を検出する時にも、固体蛍光シンチレーターとPMTを使って放射線計測が行われています。ここでは宇宙初期での星の発生やブラックホールの物理を研究しています(http://www.astro.isas.ac.jp/index-j.html)。変わった例では、地球の大気を検出器に利用したγ線検出も行われています(http://icrhp9.icrr.u-tokyo.ac.jp/japanese/)。金沢大学の辰口には低レベル放射能を測定する施設があり、そこでは微量放射能を使ったいろいろな応用研究が行われています(http://llrl.ku-unet.ocn.ne.jp/)。まずこれらのhome-pageにアクセスして放射線計測の最前線を調べてみよう。
  このように、放射線を計測する技術は現代物理学の一翼を担う重要な技術です。しかし最近の放射線を計測する技術は極めて多様であり、学生実験で全てを試みることは出来なくなりました。ここで扱うような方法以外にも半導体検出器やフィルム検出器やカロリメーター検出器と呼ばれる方法があります。ここでは最も一般的な方法でかつ良く使われる蛍光シンチレーターとPMTを使った放射線計測の基礎を学ぶことにします。これを学べば他の方法も無理なく理解できるでしょう。参考図書として G.F.Knollの「放射線計測ハンドブック」(坂井訳、日刊工業新聞社)、共立実験物理講座「放射線」と「アイソトープ手帳」(日本アイソトープ協会)が良いでしょう。物理図書室に用意してあります。

1: 放射線と相互作用
    荷電粒子、α、β、γ線
2: 測定器
    固体シンチレーターとPMT
3: 放射線と統計
    Poisson分布と標準偏差
4: 放射線を測定する
    実験1:自然放射能を測定する 裸と鉛の中 1時間、3時間
    実験2: 2cmの銅板 3時間
    実験3:Compton散乱
    処理 :統計と誤差
参考: 放射線の単位系

1: 放射線と相互作用

1.1 放射線の生成  放射線(ionizing radiation)には定義があります。電離作用をもった荷電粒子や電磁波のことで、電離作用をもたない低周波の電波などを放射線とはよびません。最も一般的なのは次のような場合です。不安定な原子核や素粒子が安定な状態に崩壊するときにα線(α崩壊)を出したり、β線(β崩壊)を出したりします。またα、β崩壊で励起状態に残った原子が更に安定な状態に向かってγ線(γ放射)を出すこともあります。 このような過程で放射されるα線、β線、γ線をまとめて放射線と呼ぶことが多い。また地上では、高エネルギー宇宙線が地球大気と相互作用して作ったπ中間子を起源にしたμ粒子(ミューオン)が大量に検出されます。このように素粒子の崩壊にともなう荷電粒子やγ線も一般的に放射線と呼んでいます。それでは放射線が作られる素課程をまとめてみよう。

 α崩壊(decay)は式で書くと以下のようになり、α線を放出して終状態が質量数で4減り、原子番号で2減った原子核(娘核)となります。Zが同じでAの異なる元素を同位元素と呼びます。
              (A,Z)->(A-4,Z-2)+α
 β崩壊で放出される電子の種類には2種類があります。言うまでもなく電子と陽電子です。  
              (A, Z)->(A, Z+1) + e- + νebar
              (A, Z)->(A,Z-1) + e+ + νe
原子核が直接に自分のK殻の電子を捕獲するEC(Electron Capture)。特性X線源として重要です。
              (A, Z) + e- -> (A, Z-1) + νe
また内部転換(IC: Internal Conversion)もあります。 この過程ではAもZも変化しないが電子が飛び出てきます。
 ここで寿命あるいは半減期について述べておきます。崩壊に伴って数が減少し、ついには崩壊は弱くなる。崩壊の数:δNが原子の数Nに比例し観測時間:δtに比例するのは当然です。δNは-τNδtに比例することになる。τは比例常数。この関係は次の式を満足します。

                N(t)=N0 exp(-τt)

Nが半分になる時間を半減期:Tと呼び、τのことを寿命と呼びます。言うまでもなくIn(1/2)=τTです。

 γ放射は(崩壊とは言わない)、原子核が光子を放出して励起状態からより低い状態に遷移するときに放出されます。もちろんAもZも変化しない。γ線とX線には明確な区別はないが、一般的にコンプトン効果が支配的なエネルギー領域ではγ線と呼ぶことが多い。

 さて素粒子反応も放射線をつくります。 高エネルギー宇宙線(主に陽子)が地球の大気に衝突すると大量のπ中間子がつくられます。π中間子はすぐに崩壊してμ粒子になり、それが地上に降り注ぎます。
               π+/- -> μ+/- + νμ

 これらが代表的な放射線の生成過程でしょう。ここでは電荷が加速度運動をした時に出される電磁波(γ線など)は議論しませんでした。制動放射やシンクロトロン放射も放射線を作ります。調べてみてください。この実験では自然放射能だけを扱いますので、代表的な自然放射能について言及しておきます。星が超新星爆発を起こした時に数千種類に及ぶ同位元素が作られ、それが宇宙空間にばらまかれます。それを材料に地球は生まれたわけですが、半減期の短い元素はほとんどは既に崩壊しつくし(地球は45億歳)、ごく一部の長い寿命を持った同位元素だけが残りました。代表的な例を表1で示します。 ウラン、トリウム系列で、図1にその崩壊図式をしめします。上で学んだα崩壊、β崩壊を参考に崩壊の経路を理解してみてください。当然α、β崩壊にともなってγ放射があり、今回測定の対象になるγ線が出ます。

figure-1

1.2 放射線と物質の相互作用

 ここでは生成された放射線が、どのような相互作用により検出されるか、その素過程をまとめます。

1.2.1 荷電粒子
 α線やβ線などの荷電粒子が物質に入射すると、物質と電磁相互作用をして物質を主に電離、励起し自らはエネルギーを失い減速します。荷電粒子が物質の中で止まるまでの距離を飛程と呼び、物質の種類と入射エネルギーに大きく依存します。今回の実験ではα線やβ線の電離損失を扱いません。エネルギーの定まった荷電粒子を空気中で入手するのが難しいからです。ここで扱う例外が一つあります。それはμ粒子です。宇宙線が大気と相互作用して素粒子が大量に作られ、最終的にμ粒子となって地上にふりそそぐと述べましたが、μ粒子は電子やニュートリノと並んでレプトンに分類されて強い相互作用をしません。分厚い建物も鉛も貫通してくるこの粒子の電離損失だけは扱うことにします。最前線の物理実験の多くが地下深くの鉱山でおこなわれる理由を理解するためです。μ粒子の電離損失は第一近似では

       dE/dx = 1.5Z2 MeV/g/cm2

で与えられ、例えば15 GeVを持ったμ粒子を阻止するには10kg/cm2の物質が必要なことがわかります(余裕があったら、この式はどうして導かれたか考えよう)。水に換算すると厚さは10mが必要であることがわかります。μ粒子や電子にたいするAlやPbの飛程を図2にしめします。 

figure-2

1.2.2  光子の相互作用
 ここからは電磁波の相互作用です。X線やγ線になると波としての性質よりも粒子としての性質が際立ってきます。X線やγ線は一つ二つと数えることができます。 γ線が物質に入射すると、それは散乱(scattering)されたり吸収(absorption)されたりして入射線束から消えていきます。 この変化は吸収の断面積(cross section)で表せるので、断面積についてまず紹介します。放射線は物質を通過した時に減少するが、その減少の量:dIは入射光子の数:Iに比例し物質の量dxに比例すると考えるのが自然です。比例定数をμ(cm-1)として式で書くとdI=-μIdx となる。 これは上の半減期の議論と同じで、 I(x)=I0 exp(-μx)です。ここでμ=σnと書いて、σは長さの二乗(面積)の単位を持つので断面積と呼ばれるます。nは物質の単位体積あたりの数ですが、扱いやすさを考えてnとして密度、断面積としてcm2/gにすることがほとんどで、図3もその単位系になっています。 これはちょうど面積σを持った無数の標的をピストルで打った時に当たる確率を表しているようなものです。

散乱
 散乱とは入射放射線が視線方向から逸らされることになるのだが、散乱体として一番普通に考えられるのは電子です。電子の散乱断面積が基本となります。電子はまぎれも無く電磁相互作用ですから、電子の古典半径の二乗程度として散乱断面積が与えられることは容易に想像されます。

     σ=(8/3)πre2= 8π/3(e2/mc2)= 6.65x 10-24 cm2

程度であり、この散乱断面積を特別にThomson散乱断面積と呼ぶ。

光電効果
 もっとも良く知られた光子と物質の反応が光電子吸収です。光量子の発見はこの光電効果の性質からもたらされました。 今エネルギー hνを持った光子が物質に入射し、主にK殻の電子と作用して電離を行う。Ee=hν-Iのエネルギーを持った電子が原子から飛び出る。I は原子における電子の結合エネルギーであり、我々がここで考えているエネルギーに比べれば小さい。 入射エネルギーがIより小さければ、いかに放射線を強くしても光電効果は当然起こらない。これが光量子の発見を導きました。この光電効果の吸収の断面積は

    σp = σtZ5/1374√2 (E/mc2)-7/2

で与えられる。特徴は原子番号zの5乗の依存性を持つことです。式から高いエネルギーと軽い物質では余り重要ではないことがわかります。

コンプトン効果
 光子のエネルギーが電子の束縛エネルギーに比べて大きくなると、電子を自由電子とみなした衝突が支配的になります。 これをコンプトン散乱とよぶ。入射エネルギーhνと散乱角と散乱電子、光子hν`の間にはエネルギー保存、運動量の保存がなりたちます。 角度の関係を図3のように定義します。散乱電子のエネルギーをEsとすると、エネルギー保存から光子のエネルギーhν'はhν'= hν-Es 運動量の保存から

figure-3

   hν'= hν mc2/(mc2+(hν(1ーcosθ))

となる。 この時の全散乱角にわたって積分した散乱断面積はKlein-Nishinaの式として計算され,ε=E/mc2として、σc = zσ(1-2ε + 5.2ε2 -13.3ε3) で近似されます。εが0の極限ではσとなります(これらの証明を考えてみてください)。

電子対生成
 更にエネルギーが上がると、γ線でいるよりも電子、陽電子の対を作った方が安定になって来ます。電子の静止エネルギーは2mc2=1.02 MeVなので、このエネルギー以上で対生成が行われるようになります。しかしコンプトンに比べて対生成は10 MeV を越えるような大きなエネルギーにならないと支配的ではない。

 光子に対する全ての散乱・吸収の断面積をエネルギーの関数として図4a,b,cで示します。今回の実験で使うPb, Al, NaIの断面積を示します。NaIとは次の章に出てくる結晶シンチレーターの断面積です。これで荷電粒子とγ線を代表とする電磁波の相互作用がわかりました。

figure-4 a, b, c

2:測定器

 放射線を検出する検出器にはさまざまなタイプがあります。 入射放射線のエネルギー損失を受けて、生成された電荷を直接集めるか、エネルギー損失により励起された原子からの蛍光を受けるかに大別されます。 電荷を直接集める検出器には比例計数管、電離箱、電子・ホール対の生成による電荷を集める半導体検出器(Si半導体、Ge半導体、CdTe半導体)があります。 一方、光を集める検出器には無機シンチレーターを使うか有機シンチレーターを使うのかの区別があります。ともに放射線で励起されたシンチレーターからの光を光電子増倍管で増幅して電気信号とします。夜光塗料と同じでしょうか? ここではもっとも一般的に使われる無機固体蛍光シンチレーター(scintilator)を扱うことにします。

 2.1 無機蛍光シンチレーター
無機固体蛍光シンチレーターの発光機構は、透明な絶縁体結晶に少量まぜる活性物質がつくるエネルギーレベルによっています。固体結晶や金属の中で、電子は離散的なエネルギーレベルを持つが、絶縁体では一般にそのエネルギー差(価電子帯と伝導帯)は大きく、また遷移は普通禁止されていて可視光にはなりません。少量の不純物(Tlなど)を入れるとこのレベルの中間に不純物準位をつくり、効率良く可視光を得ることができるようになります。 シンチレーションの効率は、良く知られたNaI(Tl)では1 MeVの入射エネルギーに対して約38000個の光子を放出する。これは平均すると26eVに一個の光子を放出することに相当します。 放出光子のエネルギーはほぼ3eV(415nm)であり、入射エネルギーに対する放出光子の効率は12%程度と比較的高い。しかしNaI(Tl)は余りγ線の吸収の高い物質ではないので(Naは軽い)、より吸収の効率の高いCsIやBGO結晶などの重い結晶が開発されている。しかしこのような物質では蛍光減衰時間が長かったり、蛍光効率が数%しかなかったりと欠点があります。最も良く使われるNaI(Tl)の各種パラメーターを表に示します(他のシンチレーターの特徴も調べてみよう)。

      NaI(Tl)  比重  蛍光波長 屈折率 減衰時間 蛍光効率
         3.67   415nm 1.85 0.23msec 38000/MeV

具体的なNaI(Tl)シンチレーターの構造を図5に示します。 発生した光をPMTに確実に導くための工夫がされています。PMT側はガラス窓ですが、それ以外を反射剤でくるみ、光を窓に導きます。光が屈折率の違いで反射しないようにシンチレーターとPMTの間は屈折率が近いシリコングリースを使って圧着される。 現物をゆっくりと観察してみよう(ガラスです。取り扱いに注意)。

figure-5

2.2 PMT(photo multiplier tube: 光電子増倍管)
PMTは10段程度の電極を持ち内部を真空にした電子管です。 光電面と呼ばれ光電子を出す電極(Kathode)と光電子を増倍する相互に向き合った電極(ダイノード: dynode)よりなる。 構造を図6に示しますが、実物をゆっくり観察しよう(内部が真空のガラス管です:注意)。この10段程度の電極の各段には100V程度の電位差が与えられています。 光電面は蛍光シンチレーターで作られた415nmが中心の光を再び電子に変換する。入射してくる光の波長と光電面の感度はマッチする必要があり、各種の光電面物質が開発されている。NaI(Tl)の415nmの光で最大の効率を発揮するのはマルチアルカリやS11と呼ばれる光電面です。しかしそれでも効率は10%程度に過ぎない。作られた光電子は図7のように電圧を加えられた電極により加速されて次の段に衝突してより多くの電子を放出させることになる。 各段の増倍率をΔとしてn段では 
  全電子:A=Δ となり、最終段(Anode)で集められる。 通常の電極ではΔが4ー8程度で、10段では510 約10程度に増倍されることがわかる。 もちろんこれは各段に与えられる電位差に強く依存し、104−9程度の範囲で使うのが一般的です。 電子の電荷は1.6x10-19coulombだから10−10coulomb程度の電荷となり、アンプで十分検出できるようなシグナルレベルになります。PMTは大変に雑音が少なくて増幅倍率の大きな装置です。今でも広く使われる理由です。 蛍光シンチレーターの効率約10%を考えると、200−300eVに一個の光電子が生成されたことになります。 

figure-6

3 放射線計測と統計

 放射線を計測していると、いろいなところで揺らぎに出くわします。放射線の到着時間分布もそうですが単位時間に到着する放射線の数もしかりです。 この揺らぎはポワッソン分布(Poisson)にしたがっていて、その平均数Nにたいして

                   分散:σ= √N

になる特徴を持っています。 なぜそうなるかは統計・誤差の教科書にゆずりますが、この関係だけは覚えておいてください。平均が10を越えるポアッソン分布とガウス分布を区別することはほとんど出来ません。分布をガウス分布と考えると標準偏差(分散):1σは面積で約68%の領域として与えられます。100回測定をすると68回はこの中に収まることを意味しています。 さて、シンチレーターを使うと約300eVに一個の光電子がPMTの光電面から出ることを学びました。ここで作られる光電子数:NはE/300になります(Eの単位はeV)。数Nの揺らぎと光電面から出た電子の増倍による揺らぎの和が総合的な揺らぎなります。単一の電子のPMTによる増倍:Aの揺らぎ(δA/A)は およそ1/(Δー1)となります。これは次のような考察から求められます。 一個の電子は次のdynodeでΔ倍に増幅されますが、この分散は√Δ程度と考えられます。n段あり、揺らぎは独立とすると和になりますから

        (δA/A) =1/Δ+1/Δ- - - -1/Δ〜1/(Δ-1)

であることがわかります。 一方光電子の数:Nの分散は√(E/300)でしたから、この和が総合揺らぎになります。 電子の増倍揺らぎはN個の光電子の揺らぎにくらべて、Δ-1だけ小さいことがわかります。なぜなら光電子による揺らぎは

               (δN/N)2 = 300/E   

になるからです(半導体検出器では重要になるFano因子は無視している。時間があれば調べてみよう)。

4:放射線を測定する

 蛍光シンチレーターとPMTで放射線を測定してみよう。 PMT内部の電気的な結線とアンプの回路を図7にしめします。残念ながらこの回路の内部を見ることは出来ません。 各段に100V程度の電位差を与えますが、今回のPMTでは高圧ケーブルで+600Vを与えます(陽電位)。PMT内部には集めた荷量を電圧に変換するアンプが入っており、それの電源電圧は+12Vです。 アンプは電荷有感型と呼ばれるもので、集まった電荷:Qを V=Q/Cで電圧に変換すると同時に、τ=CR の時定数で減衰させて、次のパルスを待ち受ける回路です。C、Rはコンデンサーと抵抗です。この減衰時間:τがおおよそのこのシステムの不感時間で、これ以上にγ線が入って来ても光子を数えることはできません。信号ケーブルの中間にオッシロスコープを入れて、確かに時定数がCRのシグナルが出ているかどうかを確認しよう。 パルス波高分析装置(PHA:Pulse Height Analyser)はオッシロスコープで見えている放射線のシグナルの高さ(エネルギー)をエネルギーごとに数を数えていく測定器です。ここではPHAとオッシロスコープの使い方を説明はしません。マニュアルを見て使い方を理解する。一日かかるでしょう。

figure-7

実験0  
   オッシロスコープやPHA+パソコンの扱いをマニュアルで学んでください。

実験1
  検出器を裸の状態で1時間測定しよう。 自然放射能を使うので、この実験にはともかく長い時間がかかります。忍耐強くやろう。 特徴的な構造が600チャンネル辺りに出る(気温や高圧電源の値により変わる)。 今度は、このシステムを全て鉛の箱の中に入れて、やはり1時間測定する。鉛は重いから扱いに注意するように。 ここにも特徴的な構造がみられます。3時間計った例は図8,9。

問  ここに現れた特徴的な構造は何であろう? 測定は裸の状態と鉛の中であった。 裸と言ってもまわりの壁や窓などの建材を見ていることに注意しよう。放射線の源を考え、エネルギーを決めてみよう。どのような過程でこの放射線は出ているのだろう? 我々は普通に生活していても、かくも大量の放射線を浴びていることに驚くだろう。2本のエネルギーが知られれば、この測定システムの0点が推定できる。0点を決めて、エネルギー軸を校正しよう。

figure-8
figure-9

実験2 
  このPHAのエネルギーとチャンネルの関係式ができたら、 裸の状態で3時間、鉛の中でも3時間測定してみよう(図8、9)。測定は0秒から始めるのでは無くて、実験1に2時間追加で計ってみよう。もっといろいろな放射線が見えてくる。もちろんこの間で高圧を変化させると重ねられない。

問 それらの放射線を同定してみよう。 どのような源からどのような崩壊でそれが出ているのかをしらべなさい。
 
問 5cmの厚さの鉛の中で3時間とったデータでも、数MeV以上のエネルギーでは数がほとんど変化していない。 5cmの鉛でも止めることが出来ないこの成分は何であろう。 その理由を答えよ。

実験3
 今度は厚さ3cmの銅の蓋をして実験をしよう。やはり3時間測定する。裸の時に見えた特徴的な構造はどうなっただろう。

問 これを説明できる相互作用は何か? 計算で示せ。

問 裸3時間のデータをみると、特徴的な600チャンネル辺りの構造の低エネルギー側に谷があるのに気づく。この構造はどのような相互作用か? この構造をその相互作用から理解、解釈してみよう。 

統計処理

問  計測データを見ると、計測データはなめらかな曲線ではなくて平均の周りに揺らいでいる。計測数と分散(標準偏差)の関係を導いてみよう。それがポアッソン分布に従うことを示そう。平均の数が10を越えるとガウス分布とは区別はできない。ガウス分布として計算すれば良い。図8,9は片対数表示。
 
問 鉛の中や裸での測定の時に出る輝線の半値幅:FWHM(Full Width at Half Maximum)を求めてみよう。他にも使えるFWHMがあればそれも使おう。 エネルギーの関数としてこの半値幅はどのような関数になっているか。 関数を求め、そうなる理由を考えてみよう。


参考: 物理計測とは余り関係はしないが、一般社会では被爆や原子炉の事故などをめぐってしばしば話題となる単位がある。放射線ではなくて、放射能(radioactivity)と呼ばれることが多い。

Bq(ベクレル) : 一秒間に起きる崩壊の数。3.7x1010Bq= 1Ci  キューリは使わない。 
Gy(グレイ)  : J/kg で定義され物理的な量。ラドはもう使わない。

 人体を考えるとフラックスとしての源の強さが問題ではなくて、吸収線量(Dose)が問題となる。

Sv(シーベルト): 同じ吸収量でも人体にたいする影響はエネルギーや放射線の種類による。そこで1−20の危険度をかけたシーベルトが定義されます。普通の人が1年に浴びる量は約~2mSvです。

キューリーやラドやレントゲンなど、もう使わなくなった単位が多いので注意しましょう。

これで放射線の種類、崩壊や相互作用の素過程、シンチレーター、PMT、統計処理を学びました。いかがでしたか? 放射線は眼に見えないが、とても身近かな存在です。この放射線計測から何かアイデアの浮かんだ人、辰口に行って見たい人は遠慮なく申し出てください。 これを基礎に何か新しいことをやってみよう。