GAPの科学目標

ガンマ線バーストの謎
ガンマ線バースト(GRB)とは、100億光年以上先の初期宇宙から数10秒間という
短時間にだけ大量のガンマ線が飛来する現象です。ガンマ線の全エネルギーは
超新星爆発をはるかに凌ぐような、宇宙最大の爆発現象と認識されています。
最近、このGRBという現象がとても注目されています。この10年間の学術的進歩が
著しいだけでなく、GRBは一瞬だけではありますが非常に明るく輝くので、
はるか昔の「暗黒時代」に遡るほどの初期宇宙を見渡せる可能性があるからです。

左図はガンマ線バーストの時間変動の一例です。あるとき突然、早い時間変化を
伴いながら大量のガンマ線が降り注いでくる現象です。
右図はガンマ線のエネルギーを測定したスペクトルです。2つのベキ関数が緩やかに
連結されています。黒体放射や熱制動放射のようなスペクトルでは、エネルギーが
高くなるにつれて指数関数的に(exp関数的に)ガンマ線強度が弱くなりますが、
ガンマ線バーストの場合はEのように、エネルギーのべき乗に従って
高エネルギー側まで伸びています。このような場合を非熱的なスペクトルと呼びます。

ガンマ線バーストの理論:火の玉モデル

しかし、そのような膨大なエネルギーをガンマ線放射として解放する物理過程は、
観測的に突き止められていません。理論的に考えられている流れは、
(1) 大質量星が超新星爆発を起こした際にブラックホールを形成する
(2) 重力エネルギーやブラックホールの回転エネルギーを使って
  相対論的速度(光速の99.99%くらいの速度)のジェットが飛び出す
(3) ジェットの中で物質がぶつかり、複数の相対論的衝撃波が作られる
(4) 衝撃波の中で電子が加速され、数万ガウスに達する強磁場に巻きついて
  シンクロトロン放射によってガンマ線を作り出す
と考えられています。さまざまな観測から、ジェット状にエネルギーが噴出している
ことはわかってきましたが、肝心のガンマ線を作り出すプロセスについては
不明な点が多いのです。特に、本当に強磁場が存在するという観測的証拠は
ほとんどありません。このように強い磁場が数秒程度の短時間で生成され、
本当にシンクロトロン放射で輝くのなら、ガンマ線光子は強く直線偏光しますので、
偏光の直接検出がGRBの放射機構に迫る唯一の手段と考えられています
ガンマ線が偏光していることがわかれば強く揃った磁場の存在を証明することができ、
そこから放射メカニズムを確定できるというわけです。

ガンマ線偏光観測

このような着想から、我々の研究室ではGRB用のガンマ線偏光検出器を
開発してきました。実はX線やガンマ線の偏光観測はとても難しく、これまでに
成功した例は「かに星雲」とブラックホール候補天体の「はくちょう座X-1」
のみとなっています。
近年になって、高性能のセンサーが作り出されるようになってきました。
例えば小型で多チャンネルの読み出しが可能な光電子増倍管、
アバランシェフォトダイオードやテルル化カドミウムのような半導体検出器、
100ミクロンの精度で位置を読み出せるイメージングセンサーなどです。
これらを利用して、世界中の研究者達がガンマ線偏光観測計画を立ち上げていて、
競争は熾烈ですが我々の研究室は世界的に見ても圧倒的に早く、
人工衛星計画として実現できましたので、まさに最先端の研究をしていると言えます。

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