CdTe撮像検出器とコーデッドマスク
X線・ガンマ線イメージング検出器には、原子番号の高いテルル化カドミウム(CdTe)
半導体検出器を用います。シリコンセンサーに比べ、高いエネルギーのガンマ線でも
光電効果の効率が高いため、数10キロ電子ボルト帯でのイメージングセンサーとして
有用です。現在、金沢大学を中心としてCdTe撮像検出器とコーデッドマスクを
組み合わせたGRB検出器を開発しています。上図に示すように、36mm×36mm×1mmtの
CdTeウェハーの表裏に0.5mm×64本の電極ストリップを、それぞれx軸とy軸に直行に
配列することで、2次元撮像検出器を構成しています。両面ストリップにすることで、
表裏で128チャネルの読み出しであっても、実効的には4096画素の2次元イメージセンサー
として機能します。
コーデッドマスクは厚さ0.5mmのタングステン素材を使用する予定です。
CdTeセンサーの読み出しピッチと同様の0.5mmピッチで符号化するマスクを製作しています。
現在は開口率0.5のランダムマスクを開発していますが、その他のパターンも検討し、
GRBの検出感度に対する最適化を図っていきます。
有効面積は過去に活躍したGRB観測衛星HETE-2/WXMよりも1桁程度大きい約1000cm2を
想定しています。マスクの開口率が0.5であることから、実効的なセンサーサイズは
45cm×45cm相当となります。ただし、GRBの検出数を増やすために500cm2のセンサーを
視野が重ならないように別々の方向へ向け、2台設置することも検討しています。
視野内にかに星雲やSco X-1などの極めて明るいX線天体が混入すると、GRBの検出感度に
大きな影響を与えるため、可動式太陽電池パドルを用いるなど、運用方法やシステムを
検討する必要があります。
GRBの方向決定精度はマスクおよびセンサーの幾何学配置で決まります。マスクおよびセンサーの
ピッチをd (mm)、マスクとセンサー間の距離をD(mm)としたとき、θ=tan-1(2d/D) (ラジアン)程度と
なります。現在の検討ではd=0.5mmで、D=300mmとすることでθ=11.5arcminを想定しています。
実際にはSwift-BATでも行われているように、光子の重みづけで方向決定精度は改善されるため、
最終的にはθ=5arcmin程度を実現できると考えている。以上のような検出器を、読み出し回路や高圧電源、
筐体を含めて約50kgで構成する予定です。
広帯域ガンマ線シンチレータ検出器
青山学院大学が中心となって開発している、国際宇宙ステーション搭載CALET-GBMの
発展型は、小型科学衛星搭載のGRBスペクトロメータとして極めて現実的な装置です。
CALET-GBMの高エネルギー側を担当するSGMセンサーは、直径4インチ×高さ3インチの
BGO結晶と光電子増倍管で構成されています。このセンサーを一回り大きくした
直径5インチ×高さ3インチのものを4台搭載し、およそ数10keV〜10MeV帯域での
ワイドバンドスペクトロメータを構成する予定です。また、CALET-GBMには実装されて
いませんが、BGO結晶をプラスチックシンチレータで囲んでフォスウィッチ検出器を構成し、
反同時計数処理を行うことで宇宙線イベントを除去することも検討しています。
シンチレータそのものの重量が極めて重く、1つの結晶で7kg程度となります。
したがって、光電子増倍管や読み出し処理回路を含めて合計40kgを想定しています。
BGO結晶の温度を下げることで光量を稼げば、より低エネルギー側への感度を拡張できると
考えられますので、最大のパフォーマンスが得られるように設計していきます。
また、short
GRBの検出に対しては、この検出器の方が有利となる可能性もあるため、
シンチレータでトリガーを掛け、X線イメージャーで方向を決定するなどの連携を
取ることも想定しています。
X線イメージング検出器 | シンチレータ検出器 | |
検出器 | CdTe両面ストリップ | BGO結晶+光電子増倍管 |
エネルギー帯域 | 数keV〜100keV | 100keV〜10MeV |
検出器サイズ | 45cm×45cmまたは、 その半分を2台 |
直径5インチ×高さ3インチを4台 |
有効面積 | 1000cm2 @ 10keV (Half Coded) |
500cm2 @ 100keV |
方向決定精度 | 11.5分角 (幾何学形状から) 5分角 (光子統計の重み付けから) |
無し |
視野 | 約2ステラジアン | 約2πステラジアン |
可視光・近赤外線45cm望遠鏡
本ミッションでは、GRB検出後すぐに衛星の姿勢を変えて追観測を行い、
残光が明るい初期段階で正確な座標と大まかな赤方偏移を同定します。
GRB発生から30分以内に赤方偏移の情報を発信することで世界中の研究者の
協力を仰ぎ、すばる望遠鏡、VLT、Keckなどの大型望遠鏡や将来のJWST,
30m望遠鏡などと連動した観測を実現したいと考えています。
そのために45cm径望遠鏡を搭載し、焦点面に可視光・近赤外線の両方で同時に
観測ができる多色カメラを設置します。
望遠鏡の光学系は、リッチー・クレチアン光学系を検討しています。
カメラユニット内の補正光学を含めて、上図に示すようなレイトレース法で
成立性を確認した結果、主鏡45cmに対して焦点距離を142cm程度に抑えられると
見積もっています(ただし、迷光対策を施すことで多少は長くなる可能性がある)。
望遠鏡から導かれた光はダイクロイックミラーによって可視光と近赤外線に分けられ、
それぞれの補正光学系を経由した上で結像します。焦点面検出器は、可視光CCDと
近赤外線HAWAII2-RG (HgCdTeアレイ)を検討しています。
可視光CCDもHAWAII2-RGも17分角×17分角という広い視野を持つように光学系を
組むことで、X線・ガンマ線イメージング検出器による方向決定精度を確実に
網羅できるようにします。
検出感度の見積り
近赤外線バンドの観測で主なバックグラウンド源は、太陽光の黄道面散乱です。
我々が観測するJ,Hバンドでは、1分露光で20等級(AB)を達成できると見積もっています。
過去に近赤外線で観測されたGRB残光が、z=8に存在していると仮定した場合の
予想光度曲線を上図に示していますが、1分露光で20等級(AB)を達成できる望遠鏡ならば、
大部分の残光を検出できるはずです。現にz=8.2で発生したGRB090423Aの光度曲線も
赤色で示していますが、十分に検出できることがわかります。本ミッションで検討している
45cm望遠鏡で、z>7のGRBを十分に検出できるはずです。大まかな赤方偏移を決定するには、
複数のバンドで測光する手法や、低分散分光器を導入して分光する手法が考えられますが、
感度の最適化とGRB待機時のサイエンスを考慮して設計していきます。
ミッション期間中の多くの時間は、近赤外線望遠鏡を用いたサーベイ観測やモニター観測を
行うことになります。高赤方偏移クェーサーのサーベイ、系外惑星のトランジット観測、
変動天体のモニター観測、宇宙背景放射の揺らぎの観測などが候補として考えられます。
同時期に実現する、他のミッションや科学成果の重要性を考慮し、GRB観測と両立できる
検出器構成を検討していこうと思います。