ガンマ線バースト(GRB)1052ergものエネルギーをガンマ線放射として解放する、
宇宙最大の爆発現象です。
数秒から数十秒の短時間だけガンマ線で輝き、その後、
時間とともに暗くなる残光を伴います。
短時間ではあるが極めて明るく輝くことと、
その多くが赤方偏移
z>1で発生していることから、初期宇宙を探るプローブとして
利用されてきています。これまでに分光観測された最高赤方偏移は
GRB090423
z=8.2で、今後もより遠方のGRBが観測されると期待されています。

宇宙マイクロ波背景放射の精密観測から宇宙年齢は137億年であると解明され、
ビッグバン宇宙論と大型計算機を用いた第一原理シミュレーションによれば、
宇宙で最初の星(第一世代星:
Pop-III 星)は宇宙の晴れ上がり(中性化)から
2億年後 (z20) に誕生したと考えられています。Pop-III星からの強烈な
紫外線放射は中性化した宇宙を再電離し、
z=7の頃までには、現在のように
ほぼ完全に電離した宇宙が形成したものと考えられています。星の核融合反応で
生成された重元素は、超新星爆発や
GRBなどでばら撒かれ、水素とヘリウムばかり
だった宇宙に新たな要素を付け加えたはずです。このように、赤方偏移が
7<z<20
6億年という僅かな時間で宇宙は劇的に変化し、宇宙の運命を決定づけたといっても
過言ではない時代です。その頃の物理状態を探査することは、現代宇宙論にとって
最も重要な研究対象となっています。

 前述のように、既に人類はz=8.2 (131億光年先)で発生したGRB090423を観測しています
(Tanvir et al. 2009, Salvaterra et al. 2009)。しかしながら、このイベントについては光学分光による
赤方偏移の同定はできたものの、宇宙の物理状態については何一つ情報を得られていません。
大きく赤方偏移を受けたライマンα吸収のDumping Wing形状を測定できれば宇宙の電離度を
調べることができ、また、スペクトル中の吸収線から炭素や酸素などの重元素組成を
測定することができます
(Kawai et al. 2005, Totani et al. 2005)。したがって、赤方偏移z>7
GRBを用いて、良質の高分散分光データを取得することが次の課題と言えます。
遠方のGRBは強い赤方偏移を受けるため、
最も重要な水素のライマン系列端(912)
ライマンα線
(1216)を近赤外線で観測する必要があります。

 ここで我々は、強く赤方偏移を受けたGRBを検出するために10keV以下に感度を有する
X線・ガンマ線イメージング検出器と、可視光・近赤外線望遠鏡を同時に搭載した衛星
HiZ-GUNDAM (High- zGamma-ray bursts for Unraveling the Dark Ages Mission)を提案しています。
本ミッションは
GRBを検出した直後から可視光・近赤外線で追観測を行い、高赤方偏移GRB
いち早く特定することを目標とし、続けて、残光が明るいうちに大型望遠鏡を用いて詳細な
分光観測を実施し、
z>7GRBに対する高分散可視光・近赤外線スペクトルを取得します。
これにより、宇宙再電離や重元素合成の歴史といった、現在の宇宙論における最重要トピックの
解明を目指しています。