宇宙最大の爆発「ガンマ線バースト」は
   強磁場ジェットからの放射だった

  日本天文学会2011年秋季年会 記者発表資料

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ガンマ線バーストとは、数10秒という短時間にだけ突発的なガンマ線を放射する、
宇宙最大の爆発現象として
知られています。そのほとんどが100億光年という
宇宙の果てで発生しているため、宇宙の最遠方を研究する格好の天体です。

しかし、最も根本的な『ガンマ線を作り出すメカニズム』については
良くわからない点が多く、これを解明することが宇宙最大の爆発を理解する上で
重要となります。これまでの観測は、
(1) ガンマ線バーストが発生した方向、
(2) ガンマ線強度の時間変化、
(3) ガンマ線のエネルギー

を測定するという3つの手法が主流でしたが、ガンマ線はもう一つ重要な
『偏光』という情報を運んでくれます。このガンマ線偏光の測定は、
全く新しい切り口でガンマ線を作り出すメカニズムの解明に迫ることができるのです。

偏光とは?

光(電磁波)は電場と磁場が振動しながら伝わる波です。
電場が振動している向きを偏光方向と呼び、たくさんの光を観測した時に全体として

電場の振動方向が揃っている場合は「偏光している」といいます。

 偏光した光は特別な条件下でないと作られません。
最も有名な例として、磁場の周りに絡みつく電子が
発する光(シンクロトロン放射光)があります。
電子は磁場と垂直な平面で円運動するので、
放射される電磁波の電場はその平面内に揃うため
偏光するわけです。
 逆に、光が偏光している場合、そこには良く揃った
磁場があると推測できます。
磁場は目に見えませんので
直接観測することは困難です。偏光観測することが、
磁場の存在を明らかにする最も良い手段と考えられていて、
電波や可視光では頻繁に観測されています。今回のように
ガンマ線での観測はほとんど例が無く、世界に先駆けた観測
と言えます。

ガンマ線バースト偏光検出器 (通称:GAP)

観測装置についての説明はこちら

ガンマ線バーストの観測例
(2010年8月26日の GRB100826A)


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金星へ航行中の2010年8月26日に、非常に明るいガンマ線バースト GRB100826A を検出しました。
このバーストは偏光観測に好条件なGAPの前方21度の方向で発生したため、偏光解析が行える
観測例となりました。左上の図はバーストを検出した時の地球とIKAROS探査機の位置関係で、
右上の図がバーストのガンマ線強度変化です。

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左図:
GAPの偏光測定データ。M字型の散乱角度分布を示しているため、ガンマ線が偏光している
ことがわかります。面白い点は、GRB100826A の前半と後半では偏光方向が変化していて、
ガンマ線を放射している領域の磁場の向きが異なっていると考えられます。
右図:
統計解析した結果、GRB100826Aの偏光度は27±11%であると結論付けられました。
また、どうようの解析から偏光方向は99.9%の信頼度で変化していると言えます。

ガンマ線バーストの想像図


JPG 赤色の線は強磁場をイメージしたものです。
JPG 磁場の無いバージョン
JPG ジェットのみのバージョン
以上のように、ガンマ線偏光を検出したことと、偏光方向の時間変化を検出できたことから、
  1. 重い星が超新星爆発を起こしてブラックホールが誕生すると、
    中心部付近からほぼ光速のジェットが飛び出す。
  2. ガンマ線の偏光が検出された」ことから、ガンマ線放射領域は
    数万ガウス程度のよく揃った磁場が存在していると考えられます。

    上の図の、ジェット内部の赤色の線は強い磁場を表現したものです。
  3. 偏光方向が短時間で変化した」ことから、ジェット内部には
    ガンマ線を作り出す領域がいくつか点在していて、それぞれの
    磁場の向きは異なっていると考えられます。
  4. 電子・陽電子が強磁場に絡みつくことでガンマ線を作り出していると
    考えられます。(専門用語ではシンクロトロン放射と言います)。

以上のように、今回のGAPによるガンマ線の偏光観測、これまでの観測事実を総合すると、
宇宙最大の爆発「ガンマ線バースト」は強磁場を持った
幾つかのジェットからの放射である

と考えられます。
ガンマ線バーストの大きな謎のひとつに、重要な示唆を与えることができました。


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