研究活動紹介
概要
宇宙物理学研究室では,人工衛星に搭載するX線およびガンマ線観測装置を開発し,それを用いてガンマ線バーストなどの高エネルギー天体に関する観測的研究を進めています。2010年には,ガンマ線バーストの偏光観測装置をソーラーセイル「IKAROS」に搭載し,ガンマ線バーストの偏光を観測することに成功しました。2023年には,金沢大学として初の50kg級超小型衛星「こよう」の開発が完了し,理学と工学のグループが共同で進めたこの衛星は,学生が主体となり次世代の宇宙観測を目指しています。同年12月には無事に打ち上げが行われ,現在,宇宙観測を行う衛星運用が続いています。さらに,将来を見据えた衛星計画「HiZ-GUNDAM」の立案や,搭載機器の基礎開発も進行中です。また装置開発だけでなく,Swift衛星/Fermi衛星/XRISM衛星等の人工衛星で取得したデータを解析して,天体物理学や宇宙論の研究も行なっています。 2015年の重力波の初検出以降,重力波と多波長域の電磁波観測を組み合わせたマルチメッセンジャー天文学が急速に発展しています。私達もこの潮流に乗り,X線・ガンマ線観測に加えて,多数の地上望遠鏡を用いることで,可視光・電波域の観測も行なっています。そして,こよう衛星が発見する様々な突発天体に対し,地上望遠鏡を用いた多波長観測を展開し,ブラックホール形成や一般相対論的効果の謎に迫るべく,準備を進めています。さらに,宇宙観測で培った放射線計測技術を,分野横断的に医療や環境イメージングに応用する技術開発も行っています。
ガンマ線バーストを用いた初期宇宙探査計画HiZ-GUNDAM
HiZ-GUNDAM計画は、宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バースト(Gamma-Ray Burst; GRB)を観測し、
遠方宇宙の物理状態や元素組成の変化を解明することを目指しています。
GRBは1045 Jという莫大なエネルギーを伴い、
X線や近赤外線で明るい残光を発します。この残光を迅速に観測することで、
宇宙の再電離期における中性水素の電離過程などを、GRBを光源として調べることができます。
私たちの研究室では、広視野X線カメラを「ロブスター・アイ光学系」という新しい技術で開発し、
世界最高レベルのGRB検出感度で広い視野を監視します。HiZ-GUNDAMは、
GRBを検出後情報を速やかに発信し、大型望遠鏡による遠方のGRB残光の追跡観測を支援する
司令塔としての役割も果たします。これにより世界の天文学コミュニティによる協調観測を可能にします。
X線突発天体監視速報衛星こよう(KOYOH)
宇宙物理学研究室では、超小型衛星「こよう」に搭載する観測装置を開発し、
宇宙での最先端の天体観測を目指しています。
「こよう」は重力波天体から発せられるガンマ線バースト(GRB)
の方向や発生時刻を特定し、GRBを起こす親天体の種族の解明や、
r過程による元素合成で生じるキロノヴァ観測を推進することに貢献します。
現在、工学系の研究室と協力しながら衛星の運用を続け、
独自の観測データの取得に成功し、
宇宙の新たな側面を明らかにするためのデータ解析を鋭意進めています。
重力波観測とガンマ線観測を組み合わせた本研究は
天文学に新たな知見をもたらし、
宇宙の進化や高エネルギー現象の理解を大きく進展させるものです。
詳細は先端宇宙理工学研究センターのWebサイトで紹介していますので、
こちらからご覧ください。
天文衛星および天文台の天体観測データを用いた観測的研究
天体解析は、明るさの時間変動を示す光度曲線や、
光子エネルギー(波長)ごとの強度を分析する分光観測などを用いて、
遠方の天体の放射メカニズムや構造に迫ります。
私たちの研究室では、高エネルギー天体現象の中でも特にガンマ線バースト(GRB)や
X線を放出する連星系に注目し、世界中の天文観測衛星や天文台のデータを用いて解析を行っています。
さらに、得られた解析結果を既存の理論モデルと比較し、共通する特徴を抽出することで、
観測される現象の物理的メカニズムを解明しています。
また、シミュレーションを駆使して放射の起源や形成過程を検証し、
宇宙における未知の現象の理解を深める研究を進めています。
放射線イメージング技術の医療応用
宇宙物理学研究室では、
これまでに培ってきた先端的な宇宙観測技術を医療分野に応用しています。
その一例として、光子計測技術を活用したフォトンカウンティングCT
(Computed Tomography) の開発があります。
この技術は、物質ごとのX線吸収効率の違いを利用した物質弁別が可能で、
新しい薬のマーカーや体内組織の詳細な識別に応用されることが期待されています。
さらに、増幅機構を備えた光子計測デバイスを用いることで、高い信号雑音比を実現し、
短時間での高精度なイメージングが可能となります。
これにより、低被曝で済み、患者の負担を軽減する診断法の実現につながります。
こうした技術の実践は、医学系研究者との協力により行われており、
医療現場での革新的な応用を目指しています。